仕事で失敗してしまったら

「しまった!」と、自分が失敗したことに気がつくと、「どうしよう」という気持ちでいっぱいになって、少しの間、頭の中が真っ白になってしまうこともあります。
怒られてしまうかもしれないし、ドキドキして仕事がはかどらなくなってしまったりすると、次の仕事にも影響してしまうかもしれません。
どういうふうに気持ちを切り替えて、どう対処すれば良いでしょうか?

著者の私も、これまでの会社生活で、たくさんの失敗をしてしまいました。
そして、その失敗をうまく報告できずに、もっと怒られてしまったこともあります。そして、品質保証部に配属されて25年間、そのことを考え続けてきました。その要点を少しだけ解説したいと思います。
失敗したときの、あなたの負担が少しでも軽くなることを願いながら、参考になると思うことを書いてみます。

問題発生、失敗した人はどのように対応したら良い

問題が起きたと言われたら、そのことをなるべく早く上司に報告しましょう。すると、再発防止の検討が始まります。そのとき、失敗した人は、どのように対応したら良いのでしょうか?

再発防止の検討会議、出席の心構から

まず忘れてほしくない心構えがあります。
誰もあなたがした失敗を、あなた一人の責任にして、あなたを責めたりしようとは考えていないことです。

「なぜそんなことをしたんだ」などと聞かれることがあるでしょう。まるで取調室のテーブルに犯罪者として座らされて、あなた個人の責任を追及るように感じてしまいます。しかし、それは品質管理教育で、失敗の原因を把握して、その原因に対して対策しなければならないと教えられるからです。再発防止の手法である「なぜなぜ分析」が、問題が起きたら原因を深く掘り下げ、真因を見出して、真因に対して対策を打てというもので、周りの人はそれを実践しようとしているだけで、あなたの責任を追求しようとしているわけではありません。「なぜなぜ分析」で明らかにしたい原因は、個人的なものではなく、組織の仕事の仕方のなかの失敗を繰り返す原因です。

あなたは責任を追及されているわけではないのです。しかし、心構えとして、あなたは、あなたしか知らない失敗した状況は整理しておいたほうが良いでしょう。具体的に、どんな情報を整理しておけば良いかを考えてみましょう?

出来事の整理

失敗して問題が起きたら、なぜ失敗したのかを考える前に、失敗にいたるためのストーリーをを明確にしておきましょう。

出来事を時系列的に箇条書きにする

その失敗した仕事は、どのような目的で、いつ発生したのでしょう?これが、失敗に至るストーリの起点になります。

簡単な事例をご紹介します。その事例のあらすじは以下のとおりです。
<出来事No1>食品製造会社の新人Aさんは、新入社員研修を終えて、5月に先輩から原料などの注文方法を教わったばかりです。
<出来事No2>6月3日(月)に、上司から製品原料bの発注を頼まれました。原料bは、7月10日にまでに必要でした。原料bの見積書では、納期は注文後30日となっていました。
<出来事No3>Aさんは6月3日のうちに発注手続きを完了しました。
<出来事No4>6月13日、Aさんは28日(金)に重要な用事があり、休暇を申請しました。
<出来事No5>6月27日(木)の17時過ぎ、Aさん退社後に原料bは納入されました。
<出来事No6>28日(金)は休みでした。
<出来事No7>Aさんは週明けの月曜日(7月1日)に検収しました。原料bが必要な日は7月10日だったので、それまでに納入できてホッと一安心しました。
ところが会社の支払い業務手順は、毎月の納品は月末に締めて、検修後翌月末に支払いすることとなっており、7月1日に検収した原料bの支払い日は8月末でした。9月になって原料bメーカが代金を受け取ることになってしまいました。
<出来事No>9月2日原料メーカが原料bの代金を受け取り(納品後67日)
下請法では製品受領から60日以内の支払いと定められているため、下請法支払遅延(60日あるいは2ヶ月超え)となってしまいました。その結果、社内でAさんは厳重注意を受けました。
<出来事No>原料bの代金が下請法支払い期限60日を超え、調達部門から支払遅延を指摘された。

Aさんは、なるべく早く原料を注文し、受け取り確認後すぐに検収したので、できるだけのことは全て実施したため、はじめ注意される理由がよくわかりませんでした。一方、みんなが忙しかった6月28日に休みをとったことが悪いことだったのかなあと思いました。

この事例では何が悪かったのでしょうか?

何が問題だったのか明確にする

ここでは何が問題だったのでしょうか?指摘した調達部のひとに聞いてみたところ、下記の通りでした。

・原料メーカは原料bを6月27日に納品した。それに対して、月をまたいだ7月1日に検収。
(下請法によると支払い期日は成果物受領日から60日以内で、6月27日の60日後は8月26日。
6月末検収であれば支払いは7月末となり問題ない。しかし、月をまたいで検収すると8月末となり、違反となる)

支払期日は成果物の受領日から起算して60日以内です。 60日を超える支払期日の設定は法令違反となるため注意してください。

出典:https://www.freee.co.jp/kb/kb-trend/subcontrac-act-payment-due-date/#:~:text=支払期日は成果物の受領日から起算,内容が公表されます%E3%80%82

問題がおこるまでの出来事を整理する

どうしてこのようなことになったのでしょうか。これはAさんのせいなのでしょうか?

出来事を表にしてみましょう。登場人物は、出来事の主語(責任者)を◎、参加者を○としています。出来事No1の「原料の注文方法をAさんに教えた。」であれば主語は先輩、「原料の注文方法を先輩から教わった。」という出来事であれば主語はAさんになります。この場合、責任者は先輩だと考えられるので、主語も明記して「(先輩が)原料の注文方法をAさんに教えた。」とします。

表1.下請法支払遅延の出来事

出来事を整理して、問題と考えられることは、以下の3点に絞られました。
(1)Aさんは、原料bがいつ納入予定なのかを意識していない。
(2)Aさんは、月末最終営業日6/28(金)に、原料bの納入に関して意識せず、休暇取得。
(3)Aさんは、下請法の支払遅延違反について知らなかった。

どうすればよかったのか、再発防止策を検討する

一つ一つの出来事に対して、表1に、反省(どうすれば良かったか)の列を追加して表2にまとめてみます。反省の欄には、職場のみんなで、どうすれば良かったのか知恵を出し合って検討するのが良いでしょう。

表2.下請法支払遅延の出来事と反省

対策の検討

失敗の直接原因は、<出来事No6>6月末の締め日に検収を全て終えていなかったことです。月末を締め日としているとき、検収の月またぎは避けなければなりませんでした。登場人物それぞれの立場で、反省点を上げてみます。
<先輩>支払い方法教育のときに、下請法支払遅延について、Aさんへ説明しませんでした。
<Aさん>検収の月またぎのことを知っていたら、納入日がいつになるのかを意識していたかもしれません。また、<出来事No4>の6/13休暇申請前に、もし原料bの納品が月末にあったら、検収を済ませておくことを先輩にお願いすれば良かったと考えました。
<上司>休暇申請を受けた時に、休暇日は締め日なので、その日に納品されるものがないか、一言確認しておけば良かったと考えました。
それぞれの人が考えた対策案としては、以下のとおりです。

【先輩の対策】注文方法教育の時には下請法支払遅延についても教育する。
【上司の対策】部下が月の締め日に休暇を取る場合は、検収するものがないかを確認する。
【Aさんの対策】
  1.注文したものがあれば、いつ頃納入されるかを把握する。
  2.注文したら納入予定日を把握しておき、毎週月曜日の職場進捗会議で共有する。
  3.締め日に休む場合は、検収作業を先輩Bに頼んでおく。
  4.締め日の最終納品時間午後2時過ぎ、原料納入場所をチェックし、未検収納品を見つけたら検収担当者に連絡して検収を促す。

この対策は有効かどうか、評価して修正してみましょう。

対策案を評価する

対策案は、以下のような場合は長続きしません。

・個人的な対策は有効ではありません。組織のルールとして、継続できるものでなければ、問題は再発します。
【先輩の対策】の改善点
 「注文方法教育の時には下請法支払遅延についても教育する」ではなく、「注文方法教育資料に下請法支払遅延を入れる。」として、具体的には納品・受領から締め日までに検収を終わらせなければならないことを明記すると、教育漏れがなくなります。教育プログラムも整備するのが良いでしょう。

【上司の対策】の改善点
簡単な休暇申請書(休暇申請メールの雛形)をつくっておき、締め日に休暇申請する場合の注意事項として、未納入の注文がないかを確認させる。

【Aさんの対策】の改善点
Aさん個人の対策でなくて、注文者の対策とします。
注文者の対策(業務追加)が4項目あるのは多すぎます。注文品の月またぎ検収見逃し防止(失敗の発生)、月またぎにならないように確認する(締め日未検収品の確認。流出防止)の2項目に絞りましょう。
・発生防止(月またぎ見逃しの防止):毎週月曜日の職場進捗会議で、注文品の状況を確認する。
・流出防止(締め日未検収品の確認):締め日最終納品時間午後2時過ぎ(午後3時)、原料納入場所で、未検収品が残っていないかを確認し、注文者に連絡する。

【職場としての対策】
個人でなく、組織共通事項(週次進捗会議、教育資料、締め日2時納入場所での行事)で対応すると、問題の再発を避けることができます。職場全体の行事として、締め日最終納入時間(午後2時)の納品を終えた後、原料納入場所に未検収の納品があった場合、その日の定時を過ぎると下請法支払遅延になります。そのため職場内で当番を決めて、締め日最終納入時間後(午後3時)に原料納入場所を見回り、未検収の納品があった場合は注文担当者に連絡するルールがあれば、検収遅れによる支払遅延の危険性がなくなると考えました。

今回の問題では対策は以下の4項目に絞られました。

(対策1)毎週月曜日の第一厨房の週次進捗会議で、発注品の納入予定日を確認する。状況を確認注文方法教育資料の改訂:下請法支払遅延を追加する。
(対策2)検収担当者は副検収担当者を指名し、検収担当者が月末検収できない場合に検収作業を依頼する。休暇申請書:締め日休暇申請有無、未納入注文品の有無、副検収担当者名を確認する。
(対策3)第一厨房原料納入場所で、締め日最終納品後、午後3時、未検収品が残っていないか確認し、検収担当者に連絡する。
(対策4)月末締め日に年休取得願があった場合、注文品がないか、副検収担当者を指名したかを確認する。

職場全体の再発防止報告書を責任部門の調達部に提出しました。

まとめ

仕事で失敗してしまったら、再発防止検討会議で以下のことを実践しよう。

(1)自分一人の責任とは考えず、職場全体の問題として捉えよう。

(2)何が問題なのかを明確にしよう

(3)問題に至る出来事を整理しよう

(4)出来事に対して、職場のルールとしてどうすれば良かったか考えよう。

(5)再発防止報告書にまとめて、再発防止要求部門に提出しよう

対策に使うツール:

 表1出来事
 表2反省
 再発防止報告書

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